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  • THORNBORN ― ソーンボーン学校への帰還

    THORNBORN ― ソーンボーン学校への帰還

    僕は、ようやく学校へ行くことができた。

    あのバス事故から、しばらく時間が経っていた。

    事故の影響は想像以上に大きく、世間でも連日報道されていたらしい。

    当然、学校も例外ではなかった。

    「……やっぱり、迷惑かけちゃったよな」

    僕は小さくつぶやいた。

    もともと体が弱く、学校を休むことも多かった僕にとって、久しぶりの登校はそれだけで緊張するものだった。

    教室の扉を開ける。

    すると、いつもと違う光景が目に入った。

    いくつかの机が空席になっている。

    その上には、花瓶に生けられた花が置かれていた。

    「……え?」

    僕は思わず立ち止まった。

    「僕のクラスにも、あのバスに乗っていた人がいたんだ……」

    恥ずかしい話だけど、僕はクラスメートの顔と名前をあまり覚えていない。

    体調の管理だけで精一杯で、ほかの生徒たちと交流する機会も少なかったからだ。

    だから、同じ教室で過ごしていた人たちが亡くなったことを、今日になって初めて実感した。

    僕は自分の席に座った。

    教室は、いつもより静かだった。

    やがて担任の先生が入ってきた。

    「みんな、少し話がある」

    先生は教室を見渡し、ゆっくりと言葉を続けた。

    「今回の事故を受けて、しばらくの間、授業や学校行事を一部変更することになった。体育の授業や部活動についても、当面は中止する」

    誰も口を開かなかった。

    「それから、今日は授業を早めに終える。保護者の迎えがある生徒は、指定された場所で待つように。それ以外の生徒は、寄り道せずにまっすぐ帰宅すること。いいな?」

    「はい……」

    小さな返事が教室に響く。

    (えっ、どうしてそこまで……?)

    僕が疑問に思っていると、先生はさらに説明を続けた。

    「実は、不審な人物の目撃情報も入っている。おそらく、まだ学校の周辺を取材している報道関係者だと思うが、十分注意してほしい」

    先生は少し険しい顔になった。

    「もし声をかけられても、勝手に答える必要はない。学校の先生が対応するから、学校へ連絡するよう伝えてくれ」

    そのとき、教室の扉がノックされた。

    別の先生が担任を呼びに来たのだ。

    「すまない。少し席を外す。戻るまで静かに自習していてくれ」

    先生が教室を出ていく。

    その直後だった。

    ガシャンッ!!

    突然、激しい音が響いた。

    僕は驚いて顔を上げた。

    一人の男子生徒が立ち上がり、空席に供えられていた花瓶を床に落としたのだ。

    割れた花瓶の破片が床に散らばる。

    それなのに、周囲の生徒たちは誰も彼を止めようとしなかった。

    まるで、彼がそうする理由を知っているかのようだった。

    「……ふざけんなよ」

    男子生徒は震える声でつぶやいた。

    「俺は……認めてないからな」

    その声は次第に大きくなっていった。

    「なんで、あいつらのために花なんか飾るんだよ!!」

    教室が静まり返った。

    「俺をいじめてたんだぞ!! あの三人は!!」

    僕は息をのんだ。

    「先生が見てないところで、何度も何度も……! ほかの奴らにも口止めしてたんだ!!」

    男子生徒の目から涙がこぼれた。

    「なのに……死んだからって、急にいい人みたいに扱うのかよ……!」

    誰も何も言わない。

    「ほかの生徒と一緒に事故で死んだからって……俺がされたことまで、なかったことになるのかよ!!」

    そのとき、騒ぎを聞きつけた先生が教室に戻ってきた。

    「どうした!? 何があった!」

    しかし、男子生徒は止まらなかった。

    「先生!!」

    彼は涙を流しながら叫んだ。

    「俺、嫌だよ!!」

    「宮城、落ち着きなさい!」

    「嫌だ!! あんな奴らのために、教室に花なんか置かないでよ!!」

    先生は何も言えなかった。

    「俺だって……ずっと苦しかったんだよ……!」

    宮城君は、その場にしゃがみ込んだ。

    「うっ……ううっ……!」

    泣き声だけが教室に響いていた。

    誰も彼を責めなかった。

    先生も、すぐには言葉をかけられなかった。

    僕はただ、自分の席からその光景を見つめていた。

    (……気まずい)

    いや、違う。

    気まずいなんて言葉で片づけちゃいけないんだろう。

    でも、正直なところ、僕には何と言えばいいのかわからなかった。

    亡くなった人たちのことを、僕はほとんど知らない。

    宮城君が何をされていたのかも知らない。

    だからといって、今ここで何かを聞くのも違う気がする。

    (……今は、何も言わない方がいいよな)

    僕はそっと目を伏せた。

    床に散らばった花びらが、窓から入ってきた風で小さく揺れていた。

    ――それから数日後。

    まさか、あの日泣き崩れていた宮城君と、僕が仲良くなるなんて。

    このときの僕は、想像もしていなかった。

    いや、それどころか。

    後になって思い返すと、どうして僕たちはあんな形で知り合うことになったんだろう。

    人生って、本当に何が起こるかわからない。

    「……トホホ」

    これが、僕と宮城君の長い付き合いの始まりだった。

  • THORNBORN 4

    THORNBORN 4

    第4話「見えない同乗者」

    店主は、ふと店の外に人の気配を感じた。

    窓越しに、一人の女性が立っているのが見えた。

    「お客さんかな?」

    女性は店内を眺めているようだった。

    いつも客がいるわけではない店だ。また何か尋ねられるのだろうか。

    そう思い、店主は女性に声をかけようとした。

    だが、その瞬間だった。

    「あれ?」

    女性は何事もなかったかのように、店の前から立ち去ってしまった。

    「……なんだ。店の雰囲気を見てただけか」

    店主は少し気恥ずかしくなりながら、店の奥へと戻っていった。


    女は、不思議に思っていた。

    つい先ほどまで、何者かに監視されているような気配を感じていたのだ。

    その気配の正体を確かめようと、ここまで追ってきた。

    しかし、妙だった。

    確かに感じていたはずの気配が、突然消えてしまったのである。

    女はしばらく周囲を見渡した。

    だが、もう何も感じない。

    そして、それまで気になっていたことが、急にどうでもよくなった。

    女はそのまま歩き始め、人混みの中へと紛れていった。

    やがて、その姿は見えなくなった。

    そのときだった。

    騒がしい音楽を大音量で流しながら、一台の車が通りかかった。

    女は、その車に目を向けた。

    そして、ゆっくりと口角をつり上げた。


    「まったく、トロくせぇな! ひき殺すぞ、おい!」

    男は苛立ちながらハンドルを握っていた。

    車内には、耳障りなほど大きな音楽が鳴り響いている。

    「なんで俺が代わりに行かなきゃならねぇんだよ!」

    仕事への不満が、次から次へと口をついて出る。

    「ったく……音楽でも流してねぇと、やってらんねぇよ」

    男は舌打ちをした。

    だが、ふと車内に置いてあった家族の写真が目に入った。

    「……まあ、今度の休日は休みも取れたしな」

    その顔から、少しずつ険しさが消えていった。

    「よし。気分を切り替えるか」

    男は音楽の音量を下げた。

    そして、飲みかけのぬるいアイスコーヒーを口に含む。

    「……仕事に戻るか」

    先ほどまでの怒りが嘘のように、男は落ち着きを取り戻していた。

    彼にも生活がある。

    仕事があり、家族があり、楽しみにしている休日がある。

    乱暴な言葉を吐きながらも、彼なりに日々を生きていた。

    だが、彼女はそんな男の事情など知らない。

    いや、知ろうとするつもりさえなかったのだろう。

    男はまだ、気づいていなかった。

    いつの間にか、助手席に一人の女が座っていることに。

    女は男の横顔を見つめていた。

    そして、まるで獲物を見つけたかのように――

    静かに、笑っていた。

  • THORNBORN 3

    THORNBORN 3

    第3話「静寂の代償」

    結局、僕を迎えに来たのは父と母の二人だった。

    店に入るなり、父は僕の姿を確認し、大きく息を吐いた。

    「健人……無事だったか」

    「うん。大丈夫だよ」

    父は僕の肩に手を置き、顔をじっと見つめた。

    まるで、本当に怪我をしていないのか確かめているようだった。

    母も隣で安堵の表情を浮かべていた。

    それから二人は、店主と奥さんに深々と頭を下げた。

    「本当にありがとうございました。息子が大変お世話になりまして」

    「いやいや、そんなに頭を下げないでください」

    店主は慌てたように手を振った。

    「充電器を貸して、軽いものを作っただけですから」

    「それでも、本当に助かりました」

    母が言った。

    「主人も私も、事故のニュースを見てから生きた心地がしなかったんです」

    父は何度もうなずいた。

    「そうなんです。もし息子が、こちらに寄らずに帰ろうとしていたら……」

    そこで父は言葉を止めた。

    一瞬、店内が静かになった。

    「あるいは、もう一本遅いバスに乗ればいいと思っていたら……」

    父は僕を見た。

    「今日の事故に巻き込まれていたかもしれません」

    その言葉に、僕は何も答えられなかった。

    ほんの少し、行動が違っていたら。

    僕は今、ここに立っていなかったかもしれない。

    「ですから、本当に……このお店があってよかったと思っています」

    父は再び店主に頭を下げた。

    「息子がここで休ませてもらえた。それだけで、私たちにとっては十分すぎるほどありがたいことなんです」

    店主はしばらく父の顔を見つめ、それから静かに笑った。

    「……そうですか」

    「ええ。本当にありがとうございました」

    「いや、こちらこそ。健人くんが無事で何よりですよ」

    父はようやく、少しだけ笑顔を見せた。

    その様子を見ていた奥さんも、穏やかにうなずいていた。

    けれど僕は、そのとき気づかなかった。

    店主が父の言葉を聞いて、ほんの一瞬だけ複雑そうな顔をしていたことに。

    そして、この店がこれまで何を抱えてきたのかということにも。


    帰り支度をしている間、父から事故について聞かされた。

    現場は想像を絶する状況だったらしい。

    事故に遭ったのはバスだけではなかった。

    周囲を走っていた複数の車両も巻き込まれ、バスの乗客以外にも犠牲者が出ていたという。

    テレビで見た映像が脳裏によみがえる。

    もし、あのとき。

    僕がいつもどおりバスに乗っていたら。

    そう考えた途端、背筋に冷たいものが走った。

    「健人」

    父の声で我に返る。

    「次からは、少しは現金を持ち歩きなさい」

    「……うん」

    「体調が悪かったことは仕方ない。だが、財布の中身すら把握していなかったのは、だらしないぞ」

    父は真剣な表情だった。

    「何が起こるかわからないんだ。今日だって、こうして親切な方に助けてもらえたからよかったものの……」

    「もう、そのくらいにしてあげて」

    母が横から言った。

    「健人だって十分怖い思いをしたんだから」

    「いや、だからこそだ」

    父は譲らなかった。

    「今後はこういうことがないように、ちゃんと備えておかないといけない」

    「……わかった。気をつけるよ」

    僕がそう答えると、父はようやく表情を緩めた。

    その様子を見ていた店主の奥さんが、ふっと笑った。

    「優しそうなお父さんだけど、言うときはしっかり言う人なんですね」

    その声は穏やかだった。

    だが、続く言葉は隣に立っていた夫に向けられていた。

    「誰かさんとは違って」

    「……けっ、うるせえな」

    店主がぼそりと返した。

    母が小さく笑う。

    つられて僕も笑った。

    ほんの少しだけ、店内の空気が和らいだ。

    僕たちは改めて礼を述べ、店を後にした。

    振り返ると、店主が入り口で手を振っていた。

    奥さんも隣で静かに頭を下げていた。

    その姿を見て、僕は思った。

    いつかまた、この店に来よう。

    今度はちゃんと、お金を持って。


    客のいなくなった店内には、食器の触れ合う音だけが響いていた。

    奥さんは、健人が使った皿を流しに運び、水道の蛇口をひねった。

    冷たい水が指先を流れていく。

    「……まあ、これで静かになるわね」

    誰に聞かせるでもなく、そうつぶやいた。

    夫は奥の部屋に引っ込んでいる。

    返事はなかった。

    「亡くなった学生さんたちは気の毒だけど……」

    そこで言葉を切った。

    スポンジで皿をこする。

    洗剤の泡が、食べ残しを包み込んで流れていった。

    「これで、ようやく……」

    彼女の脳裏に、かつての店の光景が浮かんだ。


    最初は、悪い話ではないと思っていた。

    学校の生徒たちに、安心して休める場所を提供する。

    地域の店と学校が協力し、生徒の居場所を作る。

    そのための制度があるのだと説明された。

    学校の担当者は何度も店に足を運んできた。

    「どうか、ご協力いただけませんでしょうか」

    「地域の子供たちのためにも、ぜひ」

    そのたびに夫は困った顔をしていた。

    制度を利用した店の評判は、以前から耳に入っていた。

    近所の商店主たちも、誰一人として積極的ではなかった。

    それには理由があった。

    過去にこの制度を引き受けた店では、学生同士のトラブルや迷惑行為が相次ぎ、一般客が次第に離れていった。

    売り上げは落ち込み、赤字が続き、ついには閉店に追い込まれた店まであったという。

    だから、最初は断るつもりだった。

    しかし、学校側は何度も頼みに来た。

    その熱意に押される形で、夫はとうとう引き受けてしまった。

    そして、案の定だった。

    「おい、こっち来いよ!」

    「ぎゃはははは!」

    店内に響く騒ぎ声。

    テーブルを占領する学生たち。

    注文するのは飲み物一杯だけ。

    それすら頼まず、長時間居座る者もいた。

    注意をしても、その場だけ静かになる。

    しばらくすれば、また元どおりだった。

    「ちょっと、もう少し静かにしてもらえる?」

    彼女が声をかけたときも、返ってきたのは面倒くさそうな視線だった。

    「えー、別によくね?」

    「ここ、休憩していい店なんでしょ?」

    そう言って笑う。

    やがて、一般客の姿が減っていった。

    以前は昼どきになれば、近所の人たちが食事を楽しみに来てくれていた。

    常連客との世間話。

    忙しくても、充実していた時間。

    それらが少しずつ失われていった。

    「学生がうるさいから、あそこには行きたくない」

    そんな評判まで立ってしまった。

    店の前を通り過ぎる、かつての常連客。

    中をのぞいては、何も言わずに去っていく人々。

    その姿を、彼女は何度も見ていた。

    学校にも苦情を入れた。

    一度や二度ではない。

    しかし、返ってくるのは似たような言葉ばかりだった。

    「こちらでも指導はしておりますので」

    「学校としても対応は続けております」

    そして最後には、制度に伴う補助金の話になる。

    補助金があるのだから、多少の負担は仕方がない。

    まるで、そう言われているようだった。

    だが、いくら補助金をもらったところで、離れてしまった客が戻ってくるわけではない。

    失った評判が回復するわけでもない。

    学校が欲しかったのは、地域と連携して生徒の休憩場所を確保したという実績。

    少なくとも、彼女にはそう見えた。

    引き受けてもらうまでは、あれほど頭を下げていたのに。

    いざ始まれば、店の苦労など知らぬ顔だった。

    やがて、夫婦は店を畳むことまで考えるようになった。

    だが、彼女にはどうしても納得できなかった。

    自分たちが長年守ってきた店が、こんな形で終わるなんて。

    どうして、あの連中のために。

    どうして、私たちが。


    「……ふふ」

    皿を洗っていた彼女の口元から、突然、小さな笑いが漏れた。

    「いい気味だわ」

    自分でも驚くほど、自然に出た言葉だった。

    ニュースで事故のことを聞いたときは、確かに恐ろしいと思った。

    犠牲者が出たことも痛ましい。

    その気持ちに嘘はなかった。

    けれど。

    もう、あの騒がしい連中が店に来ることはない。

    飲み物一杯で何時間も居座り、大声を上げ、ほかの客を追い払っていた学生たち。

    彼らがいなくなる。

    そう思うと、不思議なほど心が軽くなった。

    「……もう、ここはあんたたちの休憩所じゃないのよ」

    奥の部屋から夫の声が聞こえた。

    「おい、何か言ったか?」

    「何でもないわよ」

    彼女は素早く返した。

    そして、洗い終えた皿を水切りかごに置いた。

    健人が使った皿だった。

    「あの子は……いい子だったわね」

    静かな声でつぶやく。

    あの子に対しても、最初は少し冷たい態度を取ってしまった。

    制服姿を見ただけで、これまでの学生たちと同じだと思い込んでいたのだ。

    けれど、話してみれば違った。

    礼儀正しく、控えめで、何かをしてもらうたびに頭を下げる。

    父親の姿を見て、なるほどと思った。

    「ああいうお父さんに育てられたからかしら……」

    夫が健人によくしてやったことは、学校にも、両親にも伝わったはずだ。

    少なくとも、あの子だけは、ここで受けた親切を忘れないだろう。

    彼女は蛇口を閉めた。

    水音が止まる。

    店内が、しんと静まり返った。

    以前なら、この時間にも学生たちの笑い声が響いていた。

    椅子を引きずる音。

    机を叩く音。

    人を呼ぶ大声。

    もう、聞こえない。

    彼女はゆっくりと店内を見渡した。

    失った客は戻らないかもしれない。

    店の経営が立ち直る保証もない。

    このまま店を畳むことになるかもしれない。

    それでも。

    「……静かね」

    彼女は微笑んだ。

    自分でも、なぜこんなに気分がいいのかわからなかった。

    窓の向こうには、いつもと変わらない街並みが広がっていた。

    あれほど多くの人間が亡くなったというのに、外の景色は何一つ変わっていない。

    彼女は最後にもう一度、誰もいない客席を見つめた。

    そして、小さく息を吐いた。

    ようやく、静かになった。


    第3話 終

  • THORNBORN 2

    THORNBORN 2

    第2話 異変

    店主は、気まずそうにしている僕を見ると、充電コードをテーブルに置き、そっとテレビをつけた。

    それから、少し申し訳なさそうに笑った。

    「……さっきの声、聞こえちゃったかな。ごめんね」

    「あ、いえ……」

    僕は曖昧に答えた。

    聞こえていなかったと言えば嘘になる。

    けれど、正直に答えるのも気まずかった。

    「うちはね、学生の休憩場所として、地元の学校から少し補助金を受け取っているんだよ。だから、できるだけ融通を利かせるようにしているんだけどね」

    店主はテーブルに置いた充電コードへ目を向けた。

    「最近の学生さんは、充電を忘れることが多いのかな。よく頼まれるんだよ」

    「……そうなんですか」

    「まあ、事情は人それぞれだからね」

    店主はそう言って笑った。

    僕は改めて頭を下げた。

    「本当にありがとうございます」

    「いいんだよ。それより、お腹は空いてないかい?」

    「えっ?」

    「嫌な気持ちにさせちゃったからね。せめてものお詫びに、何か作ってあげるよ。簡単なものだけど」

    「いえ! そんな、そこまでしていただくわけには……!」

    思わず両手を振った。

    (;´Д`)💦

    充電コードまで貸してもらったのに、これ以上甘えるなんて申し訳ない。

    ところが店主は、少し寂しそうな顔をした。

    「でもね、店をやっていて思うんだよ」

    「……?」

    「お客さんに、また来たいなって思ってもらえるだけで、うれしいんだ」

    店主は店内を見渡した。

    古びた椅子。

    長年使われてきた木製のテーブル。

    壁に掛けられた時計が、静かに時を刻んでいた。

    「実はね……そろそろ店を畳もうかと思ってるんだ」

    「えっ……?」

    「もう大きな売り上げも期待できないしね。赤字ばかりで、はっきり言って利益なんてほとんどないんだよ」

    店主は苦笑いした。

    「だから、そろそろいい区切りなのかなってね」

    僕は何も言えなかった。

    さっきまで気さくに話していた店主が、急に少し遠い存在に感じられた。

    「だからこそ、最後までお客さんには気持ちよく帰ってもらいたいんだよ。せめて何か食べていっておくれ」

    「……でも」

    「君はちゃんとうちに来て、飲み物を注文してくれたじゃないか」

    店主は僕を見て続けた。

    「喫茶店として利用してくれた。それだけで十分だよ。携帯が使えなくなっちゃったのは、災難だったけどね」

    「……ありがとうございます」

    結局、僕はその厚意を断れなかった。

    ⸻

    🥪 小さな喫茶店

    しばらくすると、店主がサンドイッチを運んできた。

    「はい、お待たせ」

    皿には、丁寧に切られたサンドイッチが並んでいた。

    「いただきます」

    一口食べる。

    パンは柔らかく、具材の味がしっかり感じられた。

    「……美味しい!」

    ( ˊ̱˂˃ˋ̱ )🥪✨

    思わず声が出た。

    店主はうれしそうに笑った。

    「そうかい。それはよかった」

    僕はサンドイッチを食べながら、充電コードにつながれたスマートフォンを確認した。

    画面は相変わらず真っ暗だった。

    電源ボタンを長押ししても、何の反応もない。

    「……くそっ。なんでつかないんだよ」

    小さくため息をついた。

    「直らないかい?」

    「はい……全然反応しなくて」

    「そうか。じゃあ食事が終わったら、お父さんだったかね? 私の電話から連絡してあげるよ」

    「あっ、ありがとうございます!」

    「飲み物の代金は、そのときお父さんに払ってもらおうかね」

    「はい! あの、サンドイッチの値段も教えてください」

    「いやいや、これはいいんだよ」

    「でも……本当に美味しかったから。僕、また来たいなって思いました」

    店主は一瞬、目を丸くした。

    そして、穏やかに笑った。

    「……ありがとう」

    そのときだった。

    店の奥で皿を洗っていた女性が、ふとこちらを向いた。

    店主の奥さんだ。

    👩💢

    ……うっ。

    やっぱり怒ってるよなぁ。

    なんというか、その視線が痛い。

    まるで、

    『口のうまい学生ね。お世辞を言えば何でもしてもらえると思ってるんじゃないの?』

    とでも言いたそうな顔をしている。

    もちろん、本当にそう思っているのかはわからない。

    でも、サンドイッチを作ってもらっているあたりから、奥の方に妙な殺気を感じていたのだ。

    ( 👁️˂˃👁️ )💦

    ……気まずい。

    僕が何度も奥へ視線を向けていることに、店主も気づいたらしい。

    「チッ……」

    突然、舌打ちが聞こえた。

    「おい、ババア! いつまでそんな陰気くせえ顔してんだ!」

    「……!」

    「ほら、しっしっ! 皿洗いやってろ! ったく、感じが悪いから接客に出せねえんだっつうの!」

    ( ゚д゚)‼️

    ……この人、本当に口が悪いな。

    僕にはあんなに優しいのに。

    さっきまで敬語で話していた人とは思えない。

    思わず苦笑いした。

    すると、そのときだった。

    店主のシャツの襟元が、わずかにずれた。

    その隙間から、黒い筋のようなものが見えた。

    「……あれ?」

    よく見ると、それは首筋に刻まれた模様だった。

    そして、奥さんの首元にも似たような黒い模様がある。

    ……えっ?

    まさか。

    タトゥー……?

    ( 👁️˂˃👁️ )⁉️

    僕の視線に気づいた店主が、楽しそうに笑った。

    「ははっ。そんなに珍しいかな?」

    「あっ! すみません!」

    「いいんだよ。実はね、僕らは学生時代から付き合っていてね」

    店主は自分の首元に軽く触れた。

    「そのまま結婚したんだけど……まあ、お互い元ヤンキーでね」

    「えっ……!」

    「だから、口が悪いんだよ。僕はなんとか敬語を使ったり、接客したりできるようになったんだけど、妻はなかなかね」

    店主は肩をすくめた。

    「まあ、お互い気を使わないから楽でいいんだけどさ」

    ……なるほど。

    元ヤンキー夫婦だったのか。

    そりゃ、口調も荒いわけだ。

    なんだか妙に納得してしまった。

    しかし、その直後だった。

    ⸻

    📺 緊急速報

    それまで穏やかに流れていたテレビ番組が、突然切り替わった。

    画面に赤い文字が表示される。

    【緊急速報】

    「……ん?」

    店主がテレビへ目を向けた。

    『速報です。たった今、○○市○○町で交通事故が発生しました』

    「おい……うちの近くじゃねえか」

    店主の表情が変わった。

    テレビには、慌ただしく動く消防車や救急車の映像が映し出された。

    そして、その奥には……。

    黒煙を上げながら炎上する、一台の大型バスがあった。

    『事故を起こした車両は現在も炎上しており、消防による消火活動が続いています。付近の皆様は、危険ですので現場に近づかないでください』

    「……バス?」

    僕は思わず画面に見入った。

    『こちらは現場の映像です。事故に遭ったのは○○交通の路線バスで、車内には多くの学生も乗車していたとみられています』

    「うわ……ひどい……」

    思わず声が漏れた。

    しかし、店主は険しい表情を浮かべた。

    「おいおい……ひどいとか、そんなもんじゃねえだろ……」

    テレビには事故現場の映像が映り続けていた。

    倒れた人々。

    慌ただしく動く救急隊員。

    事故の衝撃を物語る、無残に壊れた車体。

    そして、一瞬だった。

    カメラが、映してはいけないものまで捉えてしまった。

    「……っ!」

    奥さんが顔を背けた。

    僕も思わず息をのんだ。

    学生服を着た人の、あまりにも痛ましい姿だった。

    『あっ……!』

    画面の向こうから怒鳴り声が聞こえた。

    『おい! 何を映してるんだ! カメラを戻せ!』

    映像が慌てて切り替わる。

    「ふざけんなよ……」

    店主が低い声でつぶやいた。

    「こんなもん、テレビで映すんじゃねえよ……何考えてんだ……!」

    店主は本気で怒っていた。

    奥さんも、口元を押さえたまま黙っている。

    そのときだった。

    二人の視線が、ゆっくりと僕の方へ向けられた。

    正確には……。

    僕が着ている制服へ。

    「……ああ、そんな……」

    奥さんが小さくつぶやいた。

    僕は自分の制服を見下ろした。

    ……待てよ。

    さっきのバス。

    学生が大勢乗っていたって……。

    それに、あの時間帯……。

    『事故に遭ったバスは、○○駅を○時○分に予定どおり出発した車両と確認されています』

    その瞬間、頭が真っ白になった。

    「……え?」

    ○時○分。

    ○○駅発。

    ○○交通のバス。

    間違いない。

    僕が乗るはずだったバスじゃないか……!

    ( 👁️˂˃👁️ )‼️

    もし、今日。

    途中で体調が悪くならなかったら。

    もし、喫茶店に寄らなかったら。

    僕は今ごろ……。

    そこまで考えたときだった。

    ♪――♪――♪

    突然、テーブルの上から電子音が鳴り響いた。

    「……えっ?」

    スマートフォンだ。

    さっきまで何をしても反応しなかった画面に、着信の表示が浮かんでいた。

    そこに表示されていた名前は……。

    父さん。

    ⸻

    📱 父からの電話

    僕は震える指でスマートフォンを手に取った。

    画面には、父さんからの着信が表示されている。

    「……父さん?」

    通話ボタンに触れる。

    「もしもし……」

    『健人⁉️』

    電話の向こうから、今まで聞いたこともないような父さんの声が響いた。

    『健人! 健人なのか⁉️』

    「う、うん……僕だけど……」

    『よかった……! よかった……!』

    父さんの声が震えていた。

    『今どこにいる⁉️ 事故の現場には行ってないな⁉️』

    「うん……喫茶店にいる」

    『喫茶店? どこの店だ⁉️』

    「○○店っていう……駅の近くの……」

    『わかった! 今から迎えに行く!』

    「父さん……」

    『いいか、健人! 絶対に事故現場には近づくな! 戻っちゃダメだぞ!』

    「……うん」

    『それから、携帯の電源は絶対に切るな! 充電しておけ! いいな⁉️』

    「うん……わかった」

    『そこから動かずに待ってろ。必ず迎えに行くからな!』

    「……うん」

    通話が終わった。

    僕はスマートフォンを握りしめたまま、しばらく動けなかった。

    父さんがあんな声を出すなんて。

    僕は幼い頃から体が弱かった。

    そのため、両親はいつでも僕の居場所を確認できるよう、スマートフォンの位置情報を共有するサービスを設定していた。

    一般的な位置情報機能だけでなく、より詳しく居場所を確認できる有料サービスまで利用している。

    普段は少し心配しすぎだと思うこともあった。

    でも、今日ばかりは違った。

    スマートフォンが突然使えなくなったことで、父さんは僕の居場所を確認できなくなっていたのかもしれない。

    そして、僕が普段利用しているバスの事故を知った。

    ……どれほど心配したのだろう。

    電話越しに聞いた父さんの声が、耳から離れなかった。

    ( ´・ω・)……

    「……よかったねぇ」

    店主が静かに声をかけてくれた。

    「お父さん、迎えに来てくれるんだね」

    「……はい」

    「そうか。それなら安心だ」

    奥さんも、何も言わずに僕を見つめていた。

    さっきまでの険しい表情は、もうそこにはなかった。

    ⸻

    🌿 見えない異変

    「……もうテレビ、消しましょうか」

    奥さんがそう言った。

    「ああ、そうだな」

    店主がリモコンへ手を伸ばす。

    そのときだった。

    「……ちょっと待ってください」

    僕は思わず声を上げた。

    店主の手が止まった。

    「どうしたんだい?」

    「もう少し……見てもいいですか?」

    「無理しなくていいんだよ。あんな映像、見ない方がいい」

    「……いえ」

    僕はテレビへ視線を戻した。

    そのとき、僕自身はまだ気づいていなかった。

    さっきまで苦しめられていた体調不良が、まるで嘘のように消えていたことに。

    そして……。

    僕の服の下で、ある異変が起きていたことにも。

    誰にも見えない、服の内側。

    そこには、まるで生き物のように僕の体へ巻きついているものがあった。

    黒く、細長い何か。

    それが……。

    シュル……。

    シュルシュル……。

    音も立てず、ゆっくりとほどけ始めていた。

    腕から。

    胸元から。

    体を締めつけていたものが、少しずつ離れていく。

    しかし、健人自身はその存在に気づいていない。

    店主も奥さんも、何も知らない。

    ただ、ひとつだけ確かな変化があった。

    体を覆っていたものがほどけるにつれて、健人の体調は急速に回復していた。

    それどころか、感覚まで鋭くなっていた。

    テレビの音。

    人々の動き。

    画面の端に映る、小さな違和感。

    それまでなら見逃していたであろうものが、妙にはっきりと目に入ってくる。

    そして……。

    僕は見つけてしまった。

    ⸻

    👁️ 事故現場の女

    テレビには、事故現場の映像が流れていた。

    消防隊員が走り回り、周囲の人々は不安そうに様子を見守っている。

    泣いている人。

    呆然と立ち尽くす人。

    顔を覆い、事故現場から目をそらす人。

    誰もが、目の前の惨状に言葉を失っていた。

    ……ただ一人を除いて。

    「……あれ?」

    僕は画面を凝視した。

    事故現場の少し離れた場所に、一人の女性が立っていた。

    その人だけ、周囲とは様子が違っていた。

    人々が悲しみ、恐怖に震える中で……。

    彼女は、事故現場をじっと見つめていた。

    そして。

    笑っていた。

    「……え?」

    笑っている。

    何か楽しいものでも見ているかのように。

    ただひたすら、笑っていた。

    ( 👁️˂˃👁️ )……

    なんだ……あの人。

    どうして笑っているんだ?

    事故が起きているのに。

    大勢の人が苦しんでいるのに。

    なぜ……。

    そのときだった。

    女性が、ふいに顔を上げた。

    そして。

    こちらを見た。

    「……っ!」

    思わず息が止まった。

    そんなはずがない。

    彼女がいるのは事故現場だ。

    僕がいるのは喫茶店。

    それも、テレビの映像を通して見ているだけなのに。

    僕のことなんて、見えるはずがない。

    ……なのに。

    どうしてだろう。

    画面の向こうにいる彼女と、目が合ったような気がした。

    まるで……。

    最初から、僕がそこにいることを知っていたかのように。

    背筋に冷たいものが走った。

    彼女は……。

    一体、何者なんだ……?

    ⸻

    THORNBORN(ソーンボーン)

    第2話「異変」――完

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    第1話 帰りのバスに乗れない理由

    最近は、調子がよかったはずなのに。

    「……うっ」

    突然、胃の奥から不快な感覚がこみ上げてきた。

    思わず足を止める。

    気持ちが悪い。

    学校を出たときには、何ともなかった。それなのに、バス停へ向かう途中から、少しずつ体が重くなってきた。

    このままバスに乗って大丈夫だろうか。

    考えただけで、また吐き気が強くなった。

    「……どこかで休もう」

    辺りを見回すと、通りの向こうに小さな喫茶店が見えた。

    僕はゆっくりと歩き出し、その店の扉を開けた。

    カラン、と小さなベルが鳴る。

    店内には、落ち着いた照明が灯っていた。

    窓際の席に腰を下ろし、冷たい飲み物を注文する。

    しばらくして運ばれてきたグラスには、細かな水滴が浮かんでいた。

    一口飲む。

    冷たさが喉を通り抜けていく。

    「……ふぅ」

    少しずつ、気分が落ち着いてきた。

    よかった。

    どうやら、しばらく休めば大丈夫そうだ。

    けれど、帰りのバスに乗ることを考えると、まだ少し不安が残る。

    無理をして、途中でまた具合が悪くなったら困る。

    「……父さんに迎えに来てもらおう」

    そう決めて、鞄からスマートフォンを取り出した。

    画面に触れる。

    ……反応がない。

    「あれ?」

    もう一度、指で画面をなぞる。

    それでも何も起こらなかった。

    電源ボタンを押してみる。

    長押ししてみる。

    「……なんで?」

    画面は黒いままだった。

    学校を出るときには、充電が十分に残っていた。

    この店に入ったときだって、確か六十パーセントほどあったはずだ。

    充電切れとは考えにくい。

    「故障……したのか?」

    嫌な予感がした。

    そして、次の瞬間。

    もっと重大な問題に気づいてしまった。

    「……待てよ」

    僕はテーブルの上のグラスを見つめた。

    まだ、会計を済ませていない。

    支払いは、いつものようにスマートフォンの電子マネーでするつもりだった。

    「……えっ?」

    慌てて財布を取り出す。

    小銭入れを開き、紙幣の入る場所も確認した。

    ない。

    もう一度確認する。

    ……やっぱり、ない。

    「うそだろ……」

    現金が一円も入っていなかった。

    ( 👁️˂˃👁️ )‼️

    「最悪だぁ……!」

    思わず小さく声が漏れた。

    どうしよう。

    スマートフォンは動かない。

    父さんにも連絡できない。

    おまけに、飲み物の代金さえ払えない。

    何度も画面を操作してみたが、結果は変わらなかった。

    しばらく迷った末、僕は店員さんに声をかけた。

    「あの……すみません」

    「はい、どうしたの?」

    「あの、実は……スマートフォンが突然使えなくなってしまって……」

    言葉がうまく出てこない。

    「電子マネーで支払うつもりだったんですけど、財布にも現金が入っていなくて……」

    怒られるだろうか。

    無銭飲食だと思われたらどうしよう。

    そんな考えばかりが頭に浮かんだ。

    ところが、店員さんは僕の話を最後まで聞くと、少し考え込んだ。

    そして、穏やかな声で言った。

    「……しょうがないねぇ」

    「えっ?」

    「充電コードを貸してあげるよ。少し充電してみな」

    思わず顔を上げた。

    「い、いいんですか?」

    「ああ。ただし、ひとつ約束してほしいんだ」

    店員さんは少し声を落とした。

    「学校の友達や家族には、ここの店で充電コードを借りたことを言わないでおくれ」

    「……はい?」

    「誰にでも貸してくれる店だって噂になったら困るからね。うちは基本的に、充電だけのお客さんはお断りしているんだよ」

    なるほど。

    確かに、そんな噂が広まってしまったら、お店に迷惑をかけてしまうかもしれない。

    「それとね」

    店員さんは店内を見回した。

    「今は君一人だからいいけど、ほかのお客さんが来たら、端の席に移動しておくれ。あんまり目立たないようにね」

    「はい! ありがとうございます!」

    僕は思わず頭を下げた。

    よかった……。

    本当に、よかった。

    正直に話してよかった。

    「それじゃ、充電コードを取ってくるね!」

    そう言い残して、店員さんは奥へと向かっていった。

    僕はようやく肩の力を抜いた。

    さっきまで、どうすればいいのかわからなかった。

    それなのに、見ず知らずの僕を助けてくれる人がいる。

    なんだか、胸の奥が温かくなった。

    目の前のグラスには、飲み物が少しだけ残っていた。

    僕はそれを手に取り、最後の一口を飲み干した。

    冷たい飲み物が、今度はずいぶん美味しく感じられた。

    ( ˊ̱˂˃ˋ̱ )🍹

    ……そのときだった。

    店の奥から、女性の声が聞こえてきた。

    「あんた、また貸すの?」

    思わず動きを止める。

    「あんた、また貸すの? この前だって充電だけしに来た学生が何人もいたじゃない! うちは充電屋じゃないのよ!」

    ( 👁️˂˃👁️ )💢

    続いて、店主の荒っぽい声が響いた。

    「うるせえな! 引っ込んでろ!」

    僕は、手にしていたグラスをゆっくりとテーブルに戻した。

    ……あれ?

    もしかして、僕のことだろうか。

    店主は、僕を助けようとしてくれた。

    でも、そのせいで奥の人と揉めている。

    僕がここに来なければ、こんなことにはならなかったのだろうか。

    せっかく親切にしてくれたのに。

    また、誰かに迷惑をかけてしまった。

    ( ´・ω・)……

    さっきまで感じていた安心感が、少しずつ薄れていく。

    テーブルの上には、空になったグラス。

    その底で、小さな氷が音を立てた。

    ……美味しかったはずなのに。

    飲み物の後味が、妙に重く感じられた。