ルシファーは、仲間たちの首元を見ていた。
宝石、首飾り、太刀。
それぞれが、父から与えられた“証”を身につけている。
誰もそれを誇示しない。
だが、そこにあるだけで十分だった。
ルシファーは、何も持っていなかった。
視線を逸らす。
気づかれていないふりをする。
それでも、胸の奥がざらつく。
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父の首元には、古びた首飾りがある。
決して外すことのないそれを、ルシファーは何度も見てきた。
幼い頃、一度だけ触れようとしたことがある。
その時、父の手に払われた。
何も言われなかった。
ただ、それだけだった。
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「認められていない坊っちゃん」
その一言で、足が止まった。
振り返る。
相手の顔は覚えていない。
気づいた時には、血の匂いがしていた。
誰かが叫んでいる。
腕を掴まれる。
それでも、拳は止まらなかった。
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牢の中で、ルシファーは静かに座っていた。
扉が開く音がする。
顔を上げると、そこに父がいた。
埃まみれの衣。
荒い息。
遠くから歩いてきたのだと、すぐにわかった。
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「なぜだ」
父の声は、かすれていた。
「相手にしなければよかっただけだろう」
その言葉に、ルシファーは笑った。
小さく、息が漏れるように。
「それは」
声が震える。
「僕のことも、そうなんだろう?」
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父の目が揺れた。
何かを言おうとして、言葉が出てこない。
ルシファーは指をさす。
父の首元へ。
「あれが欲しかった」
それだけだった。
⸻
言葉が、止まらなかった。
仲間たちの帰郷の話。
父から渡された品。
自分だけが、何ももらえなかったこと。
言葉にするたび、胸の奥にあったものが形を持っていく。
「父さんは、俺を怖いって言った」
その一言で、すべてが決まった。
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サマエルは崩れ落ちた。
「違う」
声が震える。
「お前は……誇りだった」
遠い国境の名。
噂に聞く働き。
それを誇りに思っていたこと。
だが同時に、思い出す。
力がすべてだった世界。
奪うか、奪われるか。
何も守れなかった自分。
血に濡れた日々。
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「同じ道を歩ませたくなかった」
それが本音だった。
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首飾りに手をかける。
震える指で外し、差し出す。
「今、渡す。受け取ってくれ」
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ルシファーは、その手をはたいた。
金属音が、床に落ちる。
「いらない」
一言だった。
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「遅いんだよ」
目は、もう父を見ていなかった。
「俺のせいじゃない」
指を突きつける。
「サマエル、あんたのせいだ」
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処刑の日。
刃が、首元に触れる。
その瞬間、ルシファーは口を開いた。
低く、静かな詠唱。
サマエルの背が凍る。
それは――
かつて、自分が村を救った時の呪文。
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若き日の自分の声が、重なる。
だが、違う。
そこにあったのは、祈りではなかった。
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ルシファーの翼が、軋む。
色が、変わっていく。
黒く。
深く。
澄み切るほどに、美しく。
⸻
その姿は、見覚えがあった。
母の面影。
冷たい瞳。
すべてを見下ろす存在。
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ルシファーは、何も言わない。
ただ一度だけ、父を見る。
その目には、もう何もなかった。
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翼が広がる。
次の瞬間、その姿は空へと消えていた。
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